冷や飯中華食堂

シェフの気まぐれ専門店

人生の話

 なんだか久しぶりな気がしますが、それはさておき映画の話しまーす。

 『LIFE!』。予告編が尋常じゃないぐらいツボで、こりゃあ注目だぞと早速観に行ったワケですが、いやあ上映時間の半分ぐらい泣いてたんじゃねえかな。尋常じゃねえ!
 これ、邦題がいいよね。上映終了後、まさに「人生!」って叫びたくなる出来だったよ。

 ネタバレとかを気にせず書きます。
 主人公は真面目なだけが取り柄の、同僚にも、上司にも、出会いサイトの担当にも、そして俺たち観客にも嗤われるぐらいに経験も話題も何もない中年サラリーマン。会話の途中でも突然奇妙奇天烈かつ都合のいい空想の世界に入り込んで「ぼんやり」してしまう癖があるんだけど、ある日、そんな自分を変えてしまうような旅に出て大きく成長する……っていうのが予告編から想像できたあらすじで。そうそう、作品名も聞いたことねーよって人がもしここまで読むような暇人だったなら、とりあえずその予告だけ観てください。
 で、実際の内容もだいたいその通りのものなんだけど、とにかく映像が凄くて。映画を評して「映像が凄い」が真っ先に来るのってダメ映画なんじゃねえかって思われるかもしれませんが、凄く面白くて、凄く美しいのよ。
 「ぼんやり」が頻発する前半は見た目にも楽しく、実験的で、色彩豊かな映像が目立つんだけど(ところで画面にメタ的な文字が入る演出ってどの作品が発祥なのか知らないけど、俺は真っ先に『ゾンビランド』を思い出す)、勇気を持って踏み出した旅の中で空想よりも強烈な現実と向かい合ううち空想に浸る時間が減るとともに奇を衒うような特殊効果も、原色バリバリな演出もなりをひそめていくワケです。事実は小説よりも奇なり。知らない人に話しても冗談だと思われてしまう「冒険」に身を置く中盤〜後半はもう、ただの大自然の中で、ただのくすんだ色合いの、もしくはただ雄大なだけの世界に主人公が立ち向かう姿がメインになって、俺はそれだけで感動して泣いた。
 そういえば、『ロード・オブ・ザ・リング』でもただ谷間に連なる巨大な篝火が次々灯るだけのシーンで泣いたのを思い出した。力強い映像にはそれだけで説得力が生まれるんだなあ。

 映像の移り変わりもさることながら、もうひとつ重要なのは「主人公は成長なんかしちゃいない」ってところ。空想の中でしかまともに会話を交わすことすらできなかった想い人とも最後にはしっかりと通じ合った彼だけど、そうなるに至る素質は最初からすべて持っていた。得たものはあっても、それが主人公の何かを大きく成長させたワケではなくて、元々秘めていた内面が表に出てきただけってのが面白い。
 主人公の旅を、そして人生を何度も助けてくれたスケートボードの腕前も、突然標高数千メートルの山に登れるような体力も、旅の大目標たる「失われた写真のネガ」も、さらに言うならそこに映っていたものも。原題の"The Secret Life of Walter Mitty"ってのが文字通りその回答で、何もない人生なんて無くて、なんかもう、繰り返しになってしまうけど、「人生!」って叫びたくなるんだよねえ。
 
 サントラが最高だとか、ショーン・ペンがチョイ役なのに存在感ありすぎだとか、あんな標高のとこで普通の携帯の電波が入るのかよとか、そもそも携帯の電池持ちすぎだろどこのキャリアのCMだよとか言いたいことは山ほどありますが、ひとまずこんなところで。こんなバカな言葉をつい口走りたくなるような、そんな一本でした。
 
 人生、サイコー!